2022年の知床遊覧船事故を機に、民間企業・地域行政・国が連携し、先進的な安全の仕組みが知床で動き始めています。海から山へ、子どもから大人へ、知床が切り拓く観光安全DXの現在地をお伝えします。

ココヘリは、山と海での安全を守る会員制捜索サービスです。小型の発信機を携帯することで、万が一の際にヘリコプターから0メートルまで位置特定、迅速な救助へ繋げるしくみです。
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2022年の知床遊覧船事故を受け、民間企業・地域行政・国が連携し、世界自然遺産 知床で新しい安全の仕組みが動き始めています。

安全を支えるインフラ
圏外エリアが多い知床半島で、GPSが届く場所が広がりました。
これまで携帯電波もGPSも届かなかった知床半島で、GPS発信機の位置情報が取得できるようになりました。環境省・国土交通省と調整し、知床半島西側をカバーする基地局を設置。自然を守りながら命を守るインフラが整いました。

安全を支える体制
北海道警察・防災航空隊・第一管区海上保安本部が「ココヘリ」を捜索する受信機を配備しました。
事故や遭難が起きた時、捜索にかかる時間が大幅に短縮されるようになりました。ヘリに搭載された受信機がココヘリの電波をキャッチし、0メートルまで位置を特定できるようになりました。

知床観光船にGPS発信機「ココヘリ」を配備
世界自然遺産・知床を船上から楽しめる観光船。その乗客が万が一海に落ちても、GPS発信機で位置を特定できるようになりました。2024年4月にはまず子ども向けにGPS発信機「ココヘリ」140台を寄贈。2026年1月にはすべての乗客向けに306台を追加で配布しました。

THE NORTH FACE/HELLY HANSEN 知床店で、「ココヘリ」を無料レンタル
圏外エリアの多い知床の山中でも、遭難時に位置を特定できるようになりました。2026年3月より知床自然センター内の店舗で無料貸出を開始しました。Web予約または現地で受付できるようになりました。

知床自然センター、知床羅臼ビジターセンター、ルサフィールドハウス、道の駅しゃりで「ココヘリ」を無料レンタル
2026年4月より知床の主要4拠点で発信機の無料貸与を開始しました。3拠点ではクマ対策用スプレーとあわせて提供を始めました。もしもの時の対策のため、ぜひご活用ください。

知床斜里町観光協会、知床ガイド協議会メンバー全員が「ココヘリ」を導入
ガイドツアーに参加するゲストの安全が強化されました。知床のすべてのガイドがGPS発信機を導入、万が一の時にもツアー全体の位置が把握できるようになりました。森や海岸での散策中にも、もしもの備えが整いました。
ココヘリは日本全国に民間のヘリコプター・ドローン・地上部隊のネットワークを持ち、年間200件以上の遭難事故に対応しています。本プロジェクトでは機器に加え、培ってきた知見を安全DXの実現に応用しています。
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一つの事故から始まった取り組みが、どのようにして知床全域の安全インフラへと広がったのか。その道のりをたどります。
2022年4月23日、午後1時13分。知床・カシュニの滝付近の海で、知床遊覧船が沈没。乗客・乗員26名が死亡・行方不明となりました。地域では、さまざまな安全の仕組みと対策の模索が始まりました。
午後4時、斜里町役場。安全対策を議題とした会議が開かれました。参加者は斜里町職員・観光協会・地域の事業者、ゴールドウイン ヘリーハンセン事業部、ソニーネットワークコミュニケーションズ、AUTHENTIC JAPAN。ゴールドウインは以前から斜里町と協定関係にあり、その信頼がこの会議実現の土台となりました。久我社長が「まずは子どもの命を最優先に守れないか」と発言。その一言で議論が動き、翌2024年の観光シーズンに向け、GPS発信端末「ココヘリマリン」140台とゴールドウインが展開するHELLY HANSENポーチの寄贈がその場で決定しました。

知床半島の多くは、いまだに通信圏外です。携帯キャリアによる基地局設置も、世界自然遺産という環境上の制約から何度も頓挛してきました。その課題の解決に立ち上がったのが、SONY Semiconductor Solutionsの「ELTRES(エルトレス)」です。環境省・国土交通省との丁寧な調整を経て、知床半島西側をカバーするGPS基地局の設置が実現。自然を守りながら、命を守る。その両立が、ようやく形になりました。
観光船の夏期営業シーズンが開幕しました。ゴールドウインが寄贈したHELLY HANSENのポーチに発信機を入れ、子どもたちのライフジャケットに装着する形でココヘリ140台が乗客へ貸し出されるようになりました。同時に、北海道警察のヘリコプターと防災航空隊にはココヘリの電波を受信するシステムが導入されました。万が一の事故の際、0メートルまで位置を特定し、救助隊が迷わず向かえます。捜索の現場を支える警察・消防・海上保安庁との連携体制が、ここで初めて実装されました。地元紙でも報道され、「安心して子どもを乗せられる」という保護者の声が届き始めました。

総務省「地域社会DX推進パッケージ事業」に、知床半島での安全強化を目的とした申請が行われ、初年度での採択が決定しました。申請・協業を担ったのは、地域社会の持続的な成長を支える INCLUSIVE Holdings株式会社。斜里町とともに、観光安全DXモデルの構築が始まりました。この採択を受け、観光船乗客への発信機拡大提供(子ども→大人へ)と、知床連山の登山者・トレッキング参加者への貸し出しが決定。同年、SONY Semiconductor SolutionsのELTRES基地局にGPS機能が追加され、従来の電波による0メートル精度の探知に加え、GPSによる大まかな位置把握と移動履歴の確認が可能になりました。
知床・羅臼岳の登山道で男性がヒグマに襲われ死亡。この事故は、山での安全対策としてGPS発信機の携行がなぜ必要かを改めて突きつけ、登山者・ガイドへの配布を加速させました。
地域の価値をつくり、伝え、自動化する取り組みを通じて地域社会の持続的な成長を支えるINCLUSIVE Holdings株式会社が申請・協業を担当し、総務省「地域社会DX推進パッケージ事業」に採択。同事業により調達されたココヘリ発信機900台が、観光船事業者や登山ガイド、ゴールドウイン運営店舗などの現場へ届きました。

ゴールドウインが運営するTHE NORTH FACE/HELLY HANSEN 知床店で、羅臼岳の登山者を対象に、ココヘリGPS発信機の無償貸し出しがスタート。
知床自然センター、知床羅臼ビジターセンター、ルサフィールドハウス、道の駅しゃりの4拠点で発信機の無料貸与が開始。そのうち3拠点ではクマ対策用スプレーもあわせて提供しています。海の安全から始まったこのプロジェクトは、クマとの遭遇という山のリスクにも対応する観光安全DXへと進化しています。
事故を忘れない。でも、そこで止まらない。民間企業・地域行政・国が手を取り合い、一歩ずつ前へ進めてきました。知床で生まれたこの安全DXモデルは、次のステージに向かっています。
知床安全DXの現場には、さまざまな立場の「想い」がある。事故を経験した漁師、観光船事業者、行政、ガイド、アウトドアショップ——それぞれの声が重なり合い、このプロジェクトは動き出した。

この場所を訪れる方に安心を届けるために、安全を一つ一つ積み上げていく。それが、知床の信頼をつくる大事な作業なんです。
やっぱり今まで積み重ねてきた信頼が一気に崩れ去ったというのは事実なんです。この信頼を取り戻すには何十年もかかると思っていて、それをまた一つ一つ積み上げていかないといけない。
事故を受けた上で安全対策にご協力したいと言っていただいたので、非常に前向きでありがたいお話だった。ゴールドウインさんとの協定や、以前の観光船への寄贈実績というつながりもあったので、信頼できる事業者さんだなという印象はありましたね。
事故を受けて「アクティビティサポートセンター」を立ち上げて、安全に関する情報発信を集中的に行う体制を整えた。各事業者がバラバラに対応するのではなく、地域として統一的な見解を発信できるよう、体制づくりを進めているところです。
GPS発信機の導入は、具体的な取り組みとして目に見える形で示せるものだった。地域としても事業者の支えになるような、来られる方に安心安全を届けるような体制をつくっていかないといけない。安心安全を一つ一つ積み上げていくことが、大事な作業なんです。

自分自身が知床を遊びつくしているからこそ。この場所を楽しむための安全装備の携行がスタンダードになる未来を。

自分がTHE NORTH FACE/HELLY HANSEN 知床店に赴任した当時、海難事故のことがあって、知床が大きく報じられていた時期だった。だからこそ、知床の観光にポジティブなイメージにつなげて、明るい面が広がってくれればいいなと。ぜひ協力させてくださいということで、お店での取り組みをやらせていただくことになった。
もともとバックパッキングで世界一周したことがあって、いろいろな世界の自然のフィールドの魅力を感じてきたんですけど、それに引けを取らないワールドクラスのフィールドが知床にあった。夏は携帯の電波も入らないフロンティアの湿原河川にクマスプレーを持って釣りに行って、冬はバックカントリースノーボードで山に登って滑走して。北海道にいる限りは遊びつくしたいなと思っています。
知床半島はアラスカと同じくらいの高密度でクマがいて、「クマがいる前提」っていうのが北海道の自然の厳しさなんですよね。クマスプレーは持たないけど、ココヘリだったら持つっていう方もいらっしゃるかもしれない——そういういろんな視点で、安全への入口がもう少し広がるんじゃないかなと思っています。
一番は充電をするだけで自分がどこにいるかわかるということ。ただ充電して2週間まずはGPSが持って、その後は2ヶ月電波を発信し続ける。それを持つだけ、充電して持っているだけで、非常に安全が担保されるというところが魅力で。自分も家族がいるので、お子さんに持っていただいてどこにいるかわかるとか、自然以外でもいろんな活用方法があると思っています。
自分たちもココヘリを使って、大切さや未来性を発信して、より多くの方に持っていただいて、安心安全で楽しめるアウトドアアクティビティを広めていきたいなと思っています。本当に未来がいろいろ詰まっていて、安心で幸せで明るいようなものが想像できるのかなと。それがよりスタンダードになるのかなと思って期待しているところです。

まずは知床に来ていただけるように、安心安全を伝えていく。民間・行政・国が一体となって進めていけるのがいい。

世界自然遺産になっている知床で、DXのソリューションを組み合わせて安心安全を伝えていく。すごくいい座組みなんじゃないかなと。国や自治体がハードルを下げていただけるこの座組みは、取り組みの価値としてものすごく大きいなと思いました。
本来であればその良さを先に伝えていけばよかったんだと思うんですけど、船の事故やクマのことがあって、どちらかというと危険だよねという印象が強くなってしまっている。まずは来ていただけるように、安心安全を伝えていくというところをやっていかないといけない。民間・行政・国が一体となって進めていけるのがいいのかなと思っています。
北海道ライカーズという媒体を6年前から運営していて、北海道の自治体さんとの親和性はもともとあった。今、我々としてはその場所に来てもらう人に対しての情報発信というところに注力している。安心安全を伝えていくということは、ここに来ていただいていいんだという話を文脈もうまく伝えていきながら魅力を提供していくこと。まずは行っていただいて良さを知ってもらう。自然を体験してもらうのに躊躇するようなハードルを、このソリューションでなくしていけるというのはものすごく価値がある。
しっかり結果を出していきたい。このサービスの良さをこの事例で伝えていって、賛同するような自治体さんを増やしていくのが大事。今回は海と陸の両方のシチュエーションがあるのも大きい。あくまでもここは実験的な取り組みだと思ってはいますけど、同じような危険性をはらんでいる地域に提案できるような環境をどうつくるか。命を守るということ——それを全国的に広げていく活動にしていきたい。

事故後も拭えなかったお客さんの不安。知床を安心して楽しんでもらうために、海に出る人全員が安全に備える環境をつくりたい。
事故後、地域の中で安全に関するルールはかなり厳格化した。それでも「乗っても大丈夫なのか」というお客さんの不安は、なかなか後まで残っていたんですよね。目に見えてお客さんが安心して乗れる環境をどうつくるかが、ずっと課題だった。
声をかけてもらった時点で、非常にありがたかった。事故が起きてまだ日が経っていないタイミングで、たくさんの方々に助けられていたので。ココヘリは山岳ではかなりメジャーだったから受け入れやすかった。ただ船としてお客さんが安心できる環境をどうつくるかは、まだ具体的には思い描けていなかった部分もあった。
基本的には海に出る人みんなが、そういったものを持って楽しむ環境を望んでいる。漁師も、観光客も、同じように。事業者の枠を超えて、お互いに強みを生かした安全のあり方をつくっていきたいというのは、常に自分の中にありますので。
今後この先の未来もずっと、一緒に知床の未来について考えていきたい。永久的に続けていってほしいという気持ちで、変わらずいます。僕らだけではできない部分なので、協力を得られないとつくれなかった。非常にありがたい状況ですし、知床が胸張って「楽しんでいただける場所です」と言えるようにしていきたいんですよね。

発信機があれば、一発でそこに行ける。ガスがかかっても、夜でも、まっすぐシュッと。
その時は副救助長やってて、保安庁から連絡が入って、すぐ行くぞって話になったんだけど、海見たらもう時化てて。その日は出れなくて、次の日から捜索が始まった。最初はある船だけで出て、そのうちどんどん増やして、最後は10何隻行ってたのかな。全部で9日間ぐらい行った。
事故と同じ4月の海に、同じ条件でドライスーツで入ってみたんだけど、ドライスーツでもすごい堪えるよ。寒くてじっとしてたらもう——「絶対助かんない」って思った。潮の流れもあるから、1時間経ったらもうどこにいるか分からなくなっちゃう。
そういうものがあればね、一発で行けるっていうのはすっごい良いなって。前線に出る必要もないし、まっすぐシュッとそこに行ける。夜とかガスかかった時とか探しようがないけど、そういうのがあれば全然楽にザッと行けるからね。
4月はまだ山に雪が残ってて、5月になると少しずつ緑が増えて、7月にはものすごい緑に覆われる。秋には山の上から順に色が変わって、10月末にはラウスの頂に雪が降りてくる。冬は真っ白。こんな景色ないな。いろいろ行ってみたけど、ここが一番いい。

唯一無二の景色を安心して届けたい。子どもたちが喜んで身につけてくれる安全が、全国に広がってほしい。
こういった形でヘリーハンセンさんのポーチで発信機を入れてるんですけども、お子様もこれを見て「かわいい!」って喜んで、救命胴衣も着てくれたりですね。大人の方も興味津々で「これはどういったものですか?」って聞かれたりして。こういった発信機があるというと、お子様連れのお客様も安心してご乗船いただけるということで、嬉しいという声は乗船の時にいただけますね。
以前はお子様だけだったんですけども、今回台数の方も増やしていただいて、大人の方にも提供していただいたということで。お客様の方もさらに安心してご乗船いただけるのではないかなと、私たちは思っております。
知床だけではなくて、日本全国の皆さんにこういった取り組みをしていただけると、お客様も本当に安全に安心して観光できるんじゃないかなと思います。唯一無二というか、ここでしか見れない景色が昔からの自然のままずっと残っておりますので、それを安心して楽しんでいただきたいですね。

事故をゼロにするのは難しいかもしれない。でも、そこに向けて努力をやめない。新しいものをどんどん取り入れていく、その繰り返しを。
たまたま自分は日本山岳ガイド協会のやつで申し込んだから、受信機も発信機も持っていて。ナンバー入れてやれば、方向を示す矢印も出るし数字も出る。それを見せれば「ちゃんと動いてるんですね」って分かってもらえる。スイッチがないから、パイロットランプがついていれば動作しているということなんだけどね。
変な話だけど、もしかしたら登山口とかどこかに、ナンバーとか入れなくても機能してるかチェックできるセンサーみたいなのがあれば、きっとみんな面白がって、自分の動いてるかなって近づいたり離れたりして。なだれビーコンのチェックと同じ感覚でね。そういう仕掛けがあるとなんかいいような気がする。
山の事故をゼロにすることって自分は難しいと思ってるんだけど、それに向けて努力することはやめちゃダメだし、新しいものはどんどん取り入れていかないと。
「これ持ってくださいね」って発信機を手渡すことで、安全への当事者意識が生まれるんじゃないかと。自分自身の安全は自分で守るんだっていう意識づけにもなる——斜里町のガイドみんなが携行するようになって、斜里町全体で取り組んでると言ってもいい状態が生まれてきたのは、とても安堵してる。
知床で生まれた仕組みを、あなたの地域にも。
知床で実証されたGPS発信機 × ヘリ受信システム × 地域連携のモデルは、同じ課題を持つあらゆるフィールドに展開できます。
05 — PARTNER FACILITIES
知床の安全を支える施設
本プロジェクトに関わる施設をご紹介します。知床へお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。
ゴジラ岩観光
ウトロ・羅臼の両拠点から知床半島クルーズを運航。
kamuiwakka.jp →
知床世界遺産クルーズBOX
知床半島の先端までを巡るクルーズ船。
cafefox.jp →
道東観光開発(観光船おーろら)
大型船「おーろら」で知床半島を巡る観光船。
ms-aurora.com →
知床自然センター
知床国立公園内のビジターセンター。自然情報の提供やアウトドア用品のレンタル、大型映像の上映を行っています。
center.shiretoko.or.jp →
知床羅臼ビジターセンター
環境省が運営する羅臼側の情報拠点。ヒグマとの共存や知床の生態系について学べます。
env.go.jp →
THE NORTH FACE/HELLY HANSEN 知床店
知床自然センター内の直営店。ココヘリ発信機の無料貸出のほか、アウトドアギアやイベントを展開。
goldwin.co.jp →
ルサフィールドハウス
知床半島先端部地区の入口に位置。登山者やシーカヤッカーへの情報提供・ルールレクチャーを実施。
env.go.jp →
道の駅しゃり
JR知床斜里駅から徒歩5分。知床観光の玄関口として情報提供や地元産品の販売を行っています。
sharimichi.jp →
